
「わくわく教材ランド」が目指す「SEED教材」とは
長い間、より使いやすい、より高い効果を期待できる教材とはどのような教材か、作っては試し、試しては作ってを繰り返しながら試行錯誤して来ました。
その過程で、教材の方向性や一貫性を保つために「意識のしどころ」が必要だと考え、理想的な教材の要件をSimple, Exciting, Effective, Deepの4項目と定めました。(最初は、Efficientも含めていましたが、スッキリさせるために4項目に変更しました)
これらの形容詞の頭文字を取り、そして学びが未来に花を咲かせてほしいという願いを込めてSEED(種)と呼んでいます。
常にすべての要件を満たすことは難しいことですが、常にSEEDを意識しながら教材をつくることで、教材の方向性・一貫性・一定の質を保つことができると考えています。
SEEDの具体的なイメージ
S・E・E・D(シード)のそれぞれの要件について簡単にイメージを説明します。
①Simple(シンプルでつかみやすい教材)・Self-directed(自己決定)
操作性:把握しやすく扱いやすい
即時性:始めてすぐに動ける、反応が返ってくる
具体性:何を、どこまで、どうすればよいかが見えやすい
自己決定性:テーマ・方法・役割・難易度を自己決定できる
・できるだけ学習の流れをシンプルに
・すべきことが直感的・視覚的に伝わる(イラスト・タイトル・3ステップリード・見出しフォントの工夫)
・教師がざっと目を通して「3分で流れをイメージできる」教材、準備の時間を短縮できる教材
・自己決定による動機づけの強化(自己決定理論)
②Exciting(わくわくするようなおもしろい教材)
自己表現性:自分の考え・個性・経験を出せる
達成感:小さくても「できた」や「前に進んだ」を感じられる
創作性:自由に創作する喜びを感じられる、創造的な活動を含んでいる
本物性:本物の資料・課題・相手・場面とつながっている
・生徒も先生もチャレンジしたくなるような「わくわく感」
・じっくり深く考える面白さ
・大人になっても思い出すようなインパクト性
・人を笑顔にするわくわく感や人の役に立つわくわく感につながるもの(自己有用感)
③Effective(効果的な教材、努力が成果につながる教材)
反復性:何度でも試し、改善できる、定期的に実施するなど持続性がある
安心性:受け入れられている感覚があり、間違いを恐れずにチャレンジできる(心理的安全性)
承認性:友だち・先生・地域の人から認められるシーンを内包する
協働性:分担や協力によって1人では届かない成果を出せる
スキル:スキル向上にフォーカスした効果的なトレーニング法、技能統合
・無駄な作業を強いることをさける(一定回数の単語練習のような低効率の学習や家庭学習の回避)
・生徒と教師の両者にとって時間的な観点から効率化をはかれるもの
・技能統合を意識的に位置づけた教材(書いて話す、聞いて書く、聴き取ってまとめて発表など)
④Deep(奥行きのある教材)
発展性:発展的な活動につなげやすい
多様性:様々な得意さ・興味・表現方法から参加できる
交流性:対話的な活動を通して考えを交流できる、自分の考えが深まる
共有性:作品・発見・途中経過を自然に見せ合える
余 白:正解を一つに固定せず、寄り道や独自の発想を歓迎する
・新たな課題を生むような発展性がある
・もっと知りたくなるような好奇心を刺激する
・思考を深めるような問いかけの工夫
・情操が豊かになるようなトピックの選定
・学びの「余白」は「奥行き」の核心であり、創作性・自己表現性・発展性を生む土壌にもなる
・対話的な活動を織り込みコミュニケーション力の向上につながるもの
つまり、SEED教材とは、誰もがすぐに取り組め、自ら選び、わくわくしながら表現・協働し、学びを深く広げていける教材です。SEED教材が、子どもたちの成長の「種」(SEED)となるものと確信して取り組んでいます。
実際に授業で使って生徒の反応の良かったもの、使いやすいと感じたものを中心に紹介しています。
短時間で扱いやすく、明日からでも使える教材がたくさんありますので、お気に召したものからご活用ください。
「教材づくり」において大切にしている理論・概念
教育現場で重要視されている理論や考え方は多々ありますが、「わくわく教材ランド」が教材づくりでよりどころとしている理論を簡単に記しておきます。
自己調整学習理論(SRL)
「自己調整学習理論」(SRL)という言葉自体は、ここ数年で脚光を浴びるようになった印象があります。
しかし、その基盤は1980年代から蓄積されてきた理論であり、現行学習指導要領が求める「主体的な学び」を具体化する有力な枠組みです。今後の教育課程においても、重要性が高まることが予想されます。
近年、校内研究等でよく扱われる動機づけ、メタ認知、自己効力感は、「自己調整学習」を支える重要な要素です。また、非認知能力や自己有用感とも深く関わっています。自己調整学習は、こうした力を生かしながら、学習者が目標を立て、方法を選び、学習を振り返り、次の行動を改善していく過程を捉える理論です。
メタ認知・動機づけ・自己効力感:自己調整学習を構成・駆動する重要な要素
非認知能力・自己有用感:自己調整学習と強く関連し、それを支える概念
自己調整学習理論(SRL)は、Zimmermanらによって1980年代から体系化された理論であり、Banduraの社会的認知理論を基盤の一つとして発展してきた。
自己調整学習とは、学習者が「何を、どのように、どこまで学ぶか」を自ら考え、学習の途中で取組を確かめ、必要に応じて方略を変えながら学びを進めることです。単に「自分で勉強する」ことではなく、目標・方略・振り返りを循環させながら、よりよい学び方を身に付けていく過程を大切にします。
教師側の指導におけるポイント
教師は、学習を細かく管理するのではなく、生徒が自分で調整できる環境を整え、必要なときに支える役割を担います。
まず、学習のねらいや評価の観点、活動の見通しを分かりやすく示します。その上で、テーマ・方法・役割・難易度などに選択の余地を設け、生徒が「自分で決めた」と感じられる場面をつくります。
また、誤答や途中の考えも安心して出せる雰囲気、互いの努力や工夫を認め合う関係づくりが不可欠です。
教師は結果だけでなく、「どんな方法を試したか」「次は何を変えるか」に目を向けたフィードバックを行い、生徒の学習サイクルや試行錯誤を支えます。
生徒側の学習サイクルと学習方略
生徒には、PLAN(目標・計画)→DO(実行・モニタリング)→CHECK(振り返り・評価)→RETRY(改善・再挑戦)のサイクルを意識させます。
例えば、PLANでは「今日は新出語を10語書けるようにする」と具体的な目標を立てます。DOでは、声に出す、例文をつくる、仲間に説明するなど、自分に合う方法を試します。CHECKでは、できたこと・難しかったこと・有効だった方法を確かめます。
RETRYでは、「次は絵と結び付けて覚える」「友達に問題を出してもらう」など、方法を改善します。認知的方略、計画や見直しを行うメタ認知的方略、気持ちを整える情意的方略、助けを求めたり協力したりする社会的方略を、場面に応じて選べるようにすることが重要です。
マタリング(mattering)
ジェニファー・ウォレスは、過度な達成重視の文化が子どもたちの心に与える影響を取材・研究してきたアメリカのジャーナリストです。著書に、『Never Enough』や『Mattering』があります。
常に高い成果を求められる環境では、不安や抑うつのリスクが高まる一方、健やかに成長している子どもたちには共通点がありました。それが、ウォレス氏のいう「マタリング(mattering)」です。
マタリングとは、「成果ではなく、一人の人間として大切にされている」と感じること、そして「自分には周囲に役立てる価値がある」と実感することを指します。子どもの努力や結果を認めるだけでなく、その存在そのものを受け止め、学級や地域の中で誰かの役に立てる場面をつくることが大切だという考え方です。
マタリングは、自己肯定感や主体性、心の健康を支える重要な視点として、私たち教師にも多くの示唆を与えてくれます。
「わくわく教材ランド」では、これまでも学級包摂を育む学級活動系の教材づくりに力を入れてきました。
教室掲示や自己表現に焦点を当てた教材の多くには、ペア活動やグループ活動、作品の紹介・掲示など、個人のアイデアを交流させる場面を組み込んでいます。そこには、対話、協働、自己理解、他者理解、認め合い、承認を促したいというねらいがあります。
著書『Never Enough』・『Mattering』によって広く注目されるようになったウォレス氏の考え方は、こうした教材づくりの根底にある「人と人との関係を豊かにする」という願い、そして教室における心理的安全性の確保という命題と深く通じ合うものです。
今後も、教室でマタリングを育む教材開発を進めていきます。
<構想中の教材>
頼り合うスキルを教える教材
困ったときに「助けて」と言うこと、他者の支えを感謝して受け入れること、困っている人に手を差し伸べることを学ぶ、「相互依存(interdependence)」をテーマにした教材です。
他者への感謝を育む教材
自分がうまくいったことを振り返り、それが「誰の、どのような支え」によって可能になったのかを考える活動も構想しています。セント・イグナティウス高校のMike McLaughlin先生の実践のように、生徒たちに「この24時間で自分がうまくいったこと」を挙げさせ、それが「誰の、どんなサポート(朝早くから補習に付き合ってくれた先生、お弁当を作ってくれた親など)のおかげだったか」をパーセンテージで書き出させる教材。自分は多くの人に支えられ、同時に誰かを支える存在でもあることを実感できるでしょう。
お互いの貢献を讃え合う活動
朝夕の短学活で「誰かのポジティブな影響や親切な行動」を口頭で発表し合う活動は、今でも多くの学校で行われています。
今後、ウォレス氏の著書で示されている「お互いの背中に貼った紙に匿名でその人の良さを書き合う活動」なども教材化したいと考えています。
「自分が周囲からどのように価値を認められているか」を視覚的、体感的に受け取る機会になり、こうした経験が、生徒一人ひとりの自信と、安心してつながれる学級づくりにつながると考えています。
アクティブ・ラーニング
アクティブ・ラーニングとは、学習者が知識を一方的に受け取るだけでなく、課題について考え、話し合い、調べ、表現し、振り返ることを通して、主体的・対話的に学ぶ学習のあり方です。
●友だちや先生と触れ合ったり、情報や感情のやり取りをする場面がある
●自分の考え・思い・情報を表明する場面がある
●学んだことが今後の自分自身の人生や社会に活かされる実感がある
中教審答申(2012)を受けて、教材づくりに上記の視点を設けました。と言っても、それまでの指導の方向性を転換したわけではなく、気持ちを新たに大切なポイントを再確認したという意識です。
それまでも(アクティブ・ラーニングという言葉が生まれるまでも)英語科をはじめ多くの先生方がいわゆるアクティブ・ラーニングを実践していました。ただ、これらのポイントを再確認できた意義は大きいと考えています。
<追記2020年>
2017年改訂学習指導要領にて、用語が 「主体的・対話的で深い学び」 に整理されたことで「アクティブ・ラーニング」という言葉は、以前ほど聞かれなくなりましたが、考え方そのものの価値が減退したとは考えていないので、本サイトではこれまでの「アクティブ・ラーニング」という表現は残しています。







