【英語科通信2019-08-28からの転載】
この夏、私は幸運にもラオスで国際理解教育のための研修をする機会を得ました。
九州各地の先生方と一緒にラオスの首都ビエンチャンを中心にいくつかの施設や団体を訪問しました。
20年ほど前に私が初めてラオスを訪問した頃、当時のガイドブックには「東南アジア最後の秘境」と書かれていました。それが今では世界遺産を2つ有する、成長真っただ中の元気な国となっています。
毎日が新しい発見の連続で、学校に持ち帰って皆さんに伝えたいと思うことがたくさんありました。
しかし、知れば何でも楽しいというわけでもありませんでした。
過剰な投資で各地の土地が急激に値上がりしていること、開発によって古き良きラオスの風景が失われつつあること、教育が不十分で助かるべき命が多く失われていることなど、心が痛むような話も少なくありませんでした。
皆さんは日本でとても恵まれた環境(当たり前すぎて恵まれていると感じないかもしれませんが)のもとで教育を受けていますが、同じアジアの一国であるラオスの教育環境は厳しい状況です。
特に地方での教員の確保が難しく、教員の質や能力も十分でなかったり、さらに教科書や教具も不足していたりと、多くの課題があるそうです。
算数の教科書では、面積を求める学習が掛け算の学習より先に配置されるなど教科書自体の問題もあるということでした。
こう言った問題の解決のために、日本は、ラオスの教員養成校における教員養成や教科書の開発にも協力しています。
このような形で日本が国際協力をしていることは、日本人には意外と知られていないようです。
また、私にとって最も衝撃的だったことは、ラオスが世界で最も空爆された国だということです。
ベトナム戦争においてアメリカはラオスを徹底的に空爆しました。
北ベトナムから南ベトナム方面に伸びるホーチミンルートと呼ばれる輸送路のほとんどがラオスの山間部を通っていたことで、ここが集中して爆撃されたのです。
今でも地中に埋まったままの不発弾が多くあり、各国の国際協力のもとにそれらの処理作業が進められているところです。しかし、この処理の完了にはまだ100年以上かかると言われています。
日本の国内にも国外にも解決すべき問題は常に存在します。簡単には解決しません。
しかし、どんなことも「知ること」から始まるのではないかと思います。
知ったら、人は考えます。考えた人々の中から、解決に向けて動き出す人が出てくる。多くの人が考え始めたら問題の糸口も見えてきます。
問題解決へのアプローチは私たちの身近に起きているトラブルのそれと根本的には大きく違わないのではないでしょうか。
ただ、規模が大きくなると問題がより多くの問題を生み、より複雑になり、本質が見えにくくなる傾向はあると思います。
私は、学級・学年・学校における包摂(支え合い)を意識した小さな取組も、いつかどこかで自国や他国の問題解決の一助につながると信じています。
今、学校でできることは、「自国や外国の人々や文化に興味を持ってより詳しく知ろうとする姿勢を育むこと」や「相手の立場や考えも尊重する姿勢を大切にすること」だと感じます。
蛇行しながらも悠然と流れゆくメコン川を眺めながら、中学時代に授業で読んだ魯迅の「故郷」を思い出しました。
「思うに希望とは、もともとあるものともいえぬし、ないものともいえない。それは地上の道のようなものである。もともと地上に道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ。」
できれば前の方を歩く人になりたいですね。
〔写真について〕
ラオスのCOPE Visitor Centerに展示されているクラスター爆弾の模型。ラオスが受けた空爆の回数は約58万回。爆弾の総量は200万トンを超えた。
ラオスに関する他の記事も合わせてご覧ください。